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スラムダンク × 道楽① 陵南戦から学ぶ、屈辱と役割の意味
バスケ漫画の金字塔『slam dunk』
バスケットのプロ化にも大きな影響を与え、多くの名言や名シーンは、多くの人に影響を与えているのではないでしょうか。
MAX個人のnoteでも、「諦めたらそこで試合終了ですよ…」という、安西先生の名言について取り上げたコラムがありますが、2万PVを超える、トップクラスのコラムとなっております。
https://note.com/joker369max/n/n13d8e4ae67f5
この名作は、関連本として『スラムダンク勝利学』といった、成功哲学に関する書籍なども多数発刊されています。そこで今回は、道楽舎として、違った角度で『スラムダンク』と向き合っていくと、主人公の桜木花道から、注目すべき「道楽」を発見しました。いわば「道楽哲学」です。今回は、『slam dunk』について、「湘北VS陵南」と「湘北VS山王工業」をお送りしてまいります。
今回は、陵南戦で見られる、桜木の「道楽」について注目していきましょう!!
桜木花道という男
桜木花道は、自らを「天才」と称す素人です。流川をライバル視し、晴子に良いところを見せようとして、いつも格好つけます。
中学までは、その名を轟かせるどヤンキーで、高校でも「桜木軍団」と言われる仲間と共に、周りからは恐れられる存在でした。そんな彼は、中学時代に女の子50人に振られ、中学最後に振られた女子には、「バスケ部の小田くんが好き」と断られたことから、「バスケ」に対して恨みを持っていたのですが、入学した湘北高校では、速攻で赤木晴子に一目ぼれ。
惚れた女には敵わない。幸か不幸か、晴子の兄であるゴリ(赤木剛憲)はバスケ部のキャプテン。桜木がバスケ部をバカにしたことで、ゴリと勝負をすることに。10本の内、一本でも取れたら、桜木の勝ち。当然勝てる訳はないが、最後の最後、ゴリの尻を出してまでボールを取り、強引にスラムダンクを決める。ルール無視だったものの、ギャラリーの盛り上がりによって、桜木が勝ったことに。これが、彼が自身を「天才」と語る所以でした。
高校からバスケを始めたにも関わらず、類稀なる運動神経とフィジカルによって、早速試合に出られるようになりますが、格好いいからと、できもしないプレーをして、最初のうちは毎試合ファイブファウルで退場していました。毎日、基礎練をしても、長年練習を続けてきた流川を始め、他の部員に叶うわけはありません。しかし、リバウンドを中心に、活躍の片鱗を見せていくようになり、いよいよ、「がけっぷち」で臨む、全国出場を懸けた「陵南戦」を迎えます。
陵南戦での「屈辱」
桜木の味わった屈辱の意味
全国大会出場を懸けた陵南戦。この試合、絶好調で活躍していた桜木ですが、陵南の田岡監督は、桜木を素人として不安要素にカウントしていました。穴として見ていた桜木の所から攻めようと、突如現れたフクちゃんこと、福田吉兆を中心に攻めます。ことごとくゴールを決められ、流川からも「お前のディフェンスはザル」と言われてしまう。
そして、バスケットマンとして正々堂々と戦って完敗し、怪我をしてしまう。それは、桜木にとって、屈辱以外の何物でもなく、拳を強く握り、震えるほどの悔しさでした。
バスケを始めて4ヶ月。桜木花道がやってきたことは、基礎練に次ぐ基礎練。「置いてくる」で有名な、「庶民シュート」ことレイアップシュートとゴール下シュート。才能による「スラムダンク」。そして、最大の武器でもある「リバウンド」です。陵南戦に向け、死ぬほど練習してきました。
フクちゃんに負けたことで、桜木は屈辱を味わいました。その後もいい所がなく、消沈した桜木を尻目に活躍する流川。イライラが募る中で、水戸は桜木の不調を見抜いていました。
流川に競うように、できないようなプレイをする花道だったが、ふと練習を思い出したシュートによって、魚住のファウルを誘う。桜木を立ち直らせたのは「ファインプレイだぜ花道!」という宮城の言葉でした。そのおかげで、自分にできることを再確認しました。それにより、「できることをやる」ということに集中できました。それからは雑念が消え、湘北の不安要素でありながら、陵南にとっての不安要素にもなり、大活躍していきます。
欲望は呼吸を乱す
欲望は、人の目を曇らせます。『HUNTER×HUNTER』でも、「人の呼吸を乱すのは、欲望と恐怖」と語られています。
「格好つけたい」「流川より目立ちたい(笑)」という「欲望」によって、桜木は呼吸を乱し、できないことで勝負したために負けました。さらに、負けることも「恐怖」だと言えるでしょう。勝負に負け、信頼を失う恐怖は、足を竦めます。
それに気付く為には、「屈辱」が必要だったのです。
桜木は、その屈辱以降、自分にできることで勝負するようになりました。持ち前の運動量、ジャンプ力、そしてリバウンド。それだけなら、仙道にも流川にも引けを取らないでしょう。しかし、桜木は点が取りたい。活躍して流川より目立ちたい。晴子さんに格好いいと思われたいと思い、できないことをやることで、フクちゃんに負けたし、これまでもミスしてきました。
しかし、自分にできること、相手にも勝てることで勝負すれば、対等以上に渡り合える訳です。欲を捨てて初めて、持てる力を最大限に発揮できるものです。それから桜木は、潜在能力を最大限に発揮し、ことごとく田岡の予想を上回り、福田を止め、魚住を止め、仙道を止めました。そして、勝負を決めたのは、桜木のパスを受けたメガネ君こと、木暮の3Pと、桜木のスラムダンクでした。
欲は、呼吸を乱し、足元を掬います。荒療治として、挫折や屈辱を味わうことで、余計な欲を捨て、自分と向き合うようになっているのでしょう。桜木花道は、身を以て教えてくれました。
陵南キャプテン魚住に学ぶ「役割」
魚住の屈辱
陵南戦は、桜木だけではありません。陵南キャプテンの魚住もまた屈辱を味わっています。
ライバル赤木には負け、自分のミスで4ファウルによってベンチに下がるしかなくなりました。キャプテンなのにベンチに下がることになり、責任を感じ、己を責める魚住。
それは当然です。しかし、冷静になり、田岡と話をしました。
魚住は、高校入学から199cmもあり、「ビッグジュン」と呼ばれていました。しかし、技術や体力はそれほどでもなかった為、「あいつはデカイだけ」と言われていたことにショックを受けます。厳しい指導で練習にも付いて行けず、バスケを続ける自信もなくなり、田岡に「もう辞めます」と直訴しました。そこで田岡に言われたことを思い出します。
「でかいだけ?結構じゃないか。体力や技術は身につけさすことはできる。
だが、お前をでかくすることはできない。立派な才能だ」
魚住を中心としたチームを作り、全国大会出場を夢見る田岡。その後、仙道が入ってきて、それは現実味を帯びてきた。そして迎えた最後の年。最後の試合にもなるかもしれない中でやらかしてしまったミス。魚住は自分に腹を立てていた。仙道が奮闘するも、湘北にリードを広げられる中、魚住はコートに戻る。
「赤木に勝たなければ、湘北に勝てない」と思っていた魚住でしたが、陵南には、点取り屋の仙道がいる。
「俺がチームの主役じゃなくていい」
自分が勝たなくても、チームが勝てばいい。赤木に勝てなくても、自分が引き立て役となってチームを勝たせる。そう思えるには、プライドを捨てなければなりません。「デカイだけ」とバカにされ、大事な試合でやらかしてしまった屈辱を、エネルギーに変えることができたことで、魚住が土台となり、その上を仙道と福田が活躍し、敗色濃厚だった試合を、接戦にまで盛り返しました。結果として、湘北が勝ちましたが、魚住にとっては、悔いなく板前修業ができるようになったことでしょう。
そして、何より大きな感動を生み出したように思います。さらに、この魚住の経験が、山王工業戦にも関わってきますが、それはまた山王戦編で。
主役(役割)は入れ替わる
大量点を取れるから、主役とは限りません。しかし、自分の役割に徹したこの試合での魚住は、間違いなく主役級の存在感でした。例え脇役であっても、「役割」を果たすことで、主役級の働きになることはあります。『slam dunk』の主人公は桜木花道ですが、彼が主役でない時はあります。部分的には、流川が主役にもなれば、仙道が主役になる時もある。それは、赤木にしても、魚住にしても同じです。
陵南戦では、「主役」というタイトルの回もあり、主役というものがどういうものかを描いているようにも感じます。田岡のシナリオもありましたからね(笑)
主人公であっても、脇役になることはある。主人公以外が、主役になる時もある。その描き方が、『slam dunk』は秀逸で、それも「日本一のバスケ漫画」として君臨する理由でしょう。
特に、陵南戦は主役の入れ替わりや描かれ方が絶妙で、数ある試合の中でも、「湘北vs陵南」の試合は、ベストゲームに挙げる人もいるのではないでしょうか。
集中力の重要性
もう一つ。屈辱以外に、勝負の鍵になったのは「集中力」です。
試合でも、象徴的に描かれていました。桜木は、初心者ながら、時として信じられないようなプレイをします。しかし、先に述べたように、桜木は、流川に競い合ったり、身の丈には合わないプレイをしようとして、何度もミスをしたり、やられたりします。それでも、レギュラーとして試合に出ているのは、死ぬほど練習を積み重ね、他の選手にはない武器を持っているからです。それは、集中している時ほど力を発揮するところです。
その集中力で、福田を止め、仙道を止め、魚住をも止めました。
ただ、集中を高める為には、雑念を取り払わなければなりません。余計な欲を取り払う為に「屈辱」を味わい、自分にできないことや、プライド、見栄を捨てることで、できることに集中することができたのです。
それは魚住も同じです。
魚住もまた、屈辱を味わい、田岡の夢を思い出し、プライドを捨てました。「赤木に勝てず、自分が主役でなくてもチームが勝てばいい」のだと。
そして、自身は4ファールということで、ミスをすれば退場となる所でしたが、勝つ為の選択肢が絞られたことで、腹を括り、やることが明確になった。チームへの思いと責任感が、いわゆる「ゾーン」の状態に入ったのでしょう。
雑念がなく、一つのことに集中した状態が、集中力が高まる「ゾーン」の状態と言えます。「ゾーン」は入ろうと思って入れるものではないと言います。「ゾーン」に入る鍵は、結果を意識するのではなく、目の前の今に「全集中」することなのかもしれません。
本当に欲しいものを手にするには、強く願うのではなく、むしろ、欲を手放すことが必要なのでしょう。それこそが一番勇気がいることかもしれませんね。
スラムダンク道楽 まとめ
以上、桜木花道からは、欲望や見栄を張ってできないことを無理してやるのではなく、自分にできることに集中する。それが結果的にベストパフォーマンスを生むということを学びました。そして、その為には自分と向き合うことが必要だということもわかりました。そのきっかけとして、敗北や屈辱があった訳です。失敗や屈辱とは、自分と向き合うためにあるのでしょうね。
そして魚住からも、同じく「屈辱」について別の角度でフォーカスしてみました。そして、主役も一つの「役割」であり、「自分の役割に徹することで、時として主役にもなる」ということが、脇役だからこそ際立ちました。もし、自分が主人公だと思えなくても、自分の役割を自覚できたら、主役に回る時がきっときます。
陵南戦は、桜木の成長や、脇役の輝きなどが描かれた、見事な試合でした。
次回は、最後の試合となる「山王工業戦」から、「道楽エッセンス」を抽出していきますので、お楽しみに!
(※画像出典:『slam dunk』/井上雄彦 集英社)
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